第一話 偶然の不思議

世の中には科学では説明のつかない不思議な偶然がたくさんあります。 私たちが現在生きているこの地球ですが、この地球が今のように沢山の生命が 住める星であること自体、実は科学では説明がつかないのです。 惑星の位置、大きさ、生命の誕生、生物の進化など 今のような環境になる 確率を計算しますと、その数字は限りなく0に近いものになります。 科学的な計算では現在のような地球は「存在していない」という答えが 出てしまうのです。 でも、現在地球は存在しています。途方もない偶然の重なり合いです。  日常生活でも、不思議な偶然はたくさんあります。経験はないでしょうか? 例えば、噂をしていた人物が現れた。遠い旅先で知人にあう。 必要としていた物を貰う。考えていたことを隣りの人物が話し出す。 自分で買ったり、人から貰ったりして、同じ物が集まってくる・・等。  数えだしたら切りがありません。 けれど、こんな日常の些細な偶然から、歴史的事件の偶然、 勘や予知などの直感、超能力的なもの、また上記の地球が存在する偶然も 実は同じ種類の秘密から成り立っているものなのです。


スイスの心理学者カール・グスタフ・ユング(1875年~1961年)は 世界に溢れるこの「意味のある偶然」に注目して、 世界で初めてシンクロニシティの論文を発表しました。 「シンクロニシティ」はユングがつくった言葉で、直訳すると「共時性原理」、 “意味のある偶然の一致”のことです。 当サイトでは、ユングの「共時性原理」の説をもとに 話を進めていきたいと思います。 まずは、ユングのシンクロ二シティの体験、その他日常で起きた偶然の一致の 小話をご紹介します。


☆シンクロ二シティの例に使われるほど有名な話で、  ユングが若い女性患者と話していた時に起こったシンクロニシティです。 (『共時性について』エラノス叢書2 「時の現象学2」所収 平凡社 より) 「ある日、窓を背にして彼女の前に座って、彼女の雄弁ぶりに聞き耳をたてて  いたのである。 その前夜に、彼女は、誰かに黄金のスカラベ(神聖昆虫)を贈られるという 非常に印象深い夢をみたのであった。 彼女がまだこの夢を語り終えるか終えないうちに、何かが窓をたたいている かのような音がした。 振り返ってみてみると、かなり大きい昆虫が飛んできて、外から窓ガラスに ぶつかり、どう見ても暗い部屋の中に入ろうとしているところであった。 筆者はすぐに窓を開けて、中に飛び込んできた虫を空中で捕らまえた。 それはスカラバエイデ、よく見かけるバカラコガネムシで、 緑金色をしているので金色のスカラベに最も近いものであった。 『これがあなたのスカラベですよ』と言って、筆者は患者さんに コガネムシを手渡した。 この出来事のせいで、彼女の合理主義に待ちわびていた穴があき、 彼女の理知的な抵抗の氷が砕けたのであった」  こんな不思議な出来事が身の回りで起きたなら、 誰でも神秘的な感じを受けてしまいますね。 次の話は、これよりももっと日常的で馴染みやすいものです。


☆この話は私の知人の大学教授に起こった、  ちょっと不思議なシンクロニシティです。 教授には北海道に2人の教え子がいました。 2人とももう社会人です。 ある時教授は研究のために北海道に行くことになりました。 教え子に会いたいと思い連絡したところ、一人は約束をとることが出来ましたが もう一人は連絡がつきませんでした。 北海道に着き、約束の場所で待っていると、 「先生!どうされたんですか!?お久しぶりですね!」という声が 聞こえてきました。  声の主を見ると、それは連絡が取れなかった方の教え子だったのです。 彼は仕事中で、営業のために外に出ているところでした。 そして約束をしていた教え子も来て、結局その夜は3人で食事をしたそうです。 会いたいと思っていた人が、約束の時間、約束の場所に現れるとは、 非常にうれしい「意味のある偶然の一致」ですね。 ちなみにこの教授はこのような出来事によく遭遇するそうで、 「人間というのは、不思議な事だが、会いたいと思っている人には 会えるようになっているんだなぁ」と言います。 そして、こういう不思議な事を決して「偶然」とは言わないそうです。


☆もう一つ、日常的なシンクロニシティの実話を挙げてみたいと思います。  この話は、シンクロニシティの研究をしていたアラン・ヴォーンによって  紹介されている小話の中の一つです。 イギリスの北デボンに住んでいたモート夫人の身に起きたことです。 ある日、モート夫人は朝食中に、食べ物を口にいれたまま うっかり電話に出てしまいました。 彼女は困惑して口ごもっていましたが、その電話は間違い電話でした。 けれど、電話の相手はモート夫人の何年も会っていない友人であり、 モート夫人は相手の声から、それが誰であるか気付いていました。  しかし、その時は口の中が食べ物でいっぱいだったため、 また何年も連絡をとっていなかった後ろめたさもあって 彼女は気付かないふりをして電話を切ってしまいました。 その日の午後、モート夫人は別の地方にある美術館に電話をしました。 けれど番号を間違え、まったく違う所に間違い電話をかけてしまいました。 そして、見知らぬ相手と話した途端、お互いに相手が誰だか気づきました。 相手は、朝間違い電話をかけてきた女性だったのです。 そして、その女性は朝間違い電話をした時に、口がふさがっているらしい女性の 声の主がモート夫人であることに気付いていたそうです。 またモート夫人がかけた美術館の電話番号は、友人の電話番号とは まるで違っていたそうです。