第四話 占いとシンクロニシティ

 

未来を知ることが出来ず、しかも先を心配する知能を与えられている人間に とって、「未来を知る」という事は、いつの時代も魅力的なことでした。 そして、未来を垣間見させてくれる占いは、不確かなものであっても 途絶えることなく、人間の始原からあり続けています。 その種類は、多種多様で、すべて違っているようにも見えますが、 実はそのすべてに、同じ一つの根拠があるのです。 それは、意味のある偶然の一致、シンクロニシティです。 今回の「シンクロニシティの秘密」では、占いの歴史と、 それぞれの占いの秘密をご紹介していきます・・・。

* 1 前兆占い * 「日食が起きると悪しき事がある」「白鹿が現れると良い事がある」など、 世界には大昔から、多くの前兆占いが存在しました。 この“前兆占い”こそ、占いの起源と言われています。 日本でも“下駄の鼻緒が切れると、良くないことが起きる”などの 言い伝えがあり、世界の様々な前兆と同様に、「迷信」とされています。 けれど、前兆にはそれぞれに由来があり、中にはただ単に「迷信」と ばかにはできない古代の知恵があります。 インドの前兆占いを集成した「ブリハット・サンヒター」には、 前兆占いの根本の考え方とも言えそうな文章が出てきます。 「異変とは自然状態とは異なることである。人間の悪行によって罪が重なり、 災いが生ずる。その天と中空と地の災いを予め知らせるのが異変である。」 シンクロニシティ的にいいますと、 “人間が自然の秩序を乱す行いばかりしていると、それに同調して 天地も乱れてくる。さらにそのシンクロが広がり、世の中の小さなことにまで その異変が及んでくる。人間はその小さな異変を見て、世の中の乱れを 知ることができる。” 世の中のものは全て繋がっているのなら、一部分に乱れができた場合、 他の物にも影響があり、何かの“しるし”、前兆が現れるのかもしれません。 自然にあらわれる「前兆」、これが最も素朴な占いの形で、占いの根源です。 けれど、この前兆占いでは、自然に前兆があらわれるのを待つことしか、 未来を知る手段がありません。 そこで古代人は、ただ待つのではなく、自分から未来を知る方法を探しました。 

* 2 亀卜(きぼく)* 亀卜(きぼく)とは、古代中国で行われていた占いで、 亀の甲羅を焼いて、できた“ひび割れ”から未来を判断するものです。 シンクロニシティは、この世のどんなものにでも現れます。 自然に表れる前兆占いでは、範囲が広すぎて、何の前兆か特定するのが 難しく、また、前兆が現れるまで待たねばなりませんでした。 そこで古代人は、シンクロのシティが出現できる物を使って、 自分たちで“前兆”を得られるようにしたのです。  占い師は「知りたい事」と「亀の甲羅」を同調させて焼き、 亀の甲羅に記された未来を読みました。 もちろん、占いの道具は、亀の甲羅でなくても構いません。 亀の甲羅が使われる前は、骨も使われていましたし、 古代メソポタミアでは、動物の臓物で占っていました。 前兆占いでは、前兆が起きるのを待たねばならかったのが、 亀卜では、知りたい時に、未来が占えるように進化しました。 けれど、亀卜にも大きな欠点があったのです。 亀卜の“ひび割れ”や臓物の特徴などは、そのパターンが膨大すぎて、 何の“しるし”なのか、常にマニュアルに当てはまらないものが出てきました。 厳密にいえば、一つとして同じ“ひび割れ”はないのですから。 この占いでは、占い師の直感が決め手となり、 占い自体は、未来をはっきりと示すものではありませんでした。   

* 3 占星術・易占 * 未来を示す“しるし”のパターンが無限に現れてしまう亀卜に対し、  占星術は、“世界は7惑星12宮で構成されている”と先に世界観を作り、 世界に起きる状況をいくつかに限定しました。  そして、自分が知りたいことが、どの状況に当てはまるのかを占います。 このようにすれば、“ひび割れ”の前で悩む必要もなくなり、 答えの出ない問いもなくなるのです。 そして、古代中国の知恵「易占」も、占星術と同じように、 世界をいくつかに分類しておいてから、自分がどの状況にあるか調べる 占いです。  けれど、易は、このような占いの中で、最も完成度の高い 世界観持っているといえます。 占星術の場合、世界は七惑星で構成されています。そうすると、新しい惑星が 発見されれば、その度に世界は変わってしまいます。 それに、全世界とは七惑星内のことであり、それより外のことは 言及していません。 易占は、非常に数学的で、「陰」と「陽」というたった2種類の記号の 組合せだけで、世の中の事象のすべてを表しています。 微分積分数学を完成させた天才数学者のライプニッツは、 彼が考案した「二進法思想」が、古代中国の易の中に表現されていることを 発見して、驚嘆し、中国の英知に絶大な讃辞を贈ったそうです。 易は占う時、自分が置かれている状況と、占って出す卦(け)を同調させます。 そうすると、自分では気付かなかった問題点や解決策が 卦という形で、表にあらわれて出るのです。 興味がある方は、是非一度ご自分でお試し下さい。 硬貨3枚で簡単にできる易占の方法と、全六十四卦の解釈をHP上に公開しています。自分の状況を念じながら硬貨を投げれば、それに同調した卦が得られます。  「かんたん易占い」

* 4 手相・人相 * 手相・人相の秘密は、もうお気づきかもしれません。 自分の遺伝情報が全て、たった一つの細胞にも刻み込まれているように、 また、足の裏のツボが全身と対応しているように、 やはり、顔や手にも、その人の全てが表れ出ます。 特に顔は、自然と人格が表れるものですので、占い師ではなくても 優しそうだとか、厳しそうだとか、大まかなことは分かります。 手相・人相の解釈の仕方は、膨大な数の経験と、直感によります。 例えば「この線が長いほど長生きの人が多い」などの経験から 解釈のマニュアルができ、占い師が手相をみて、直感を交えて判断します。 「この線が長いほど長生きの人が多い」は“傾向”ですし、 判断は占い師の直感が主です。また、手相・人相は、その人の考え方や 生活態度が変わると変化してくるものですので、やはり、100%当たる ことはありません。 けれど、その当たる確率は、「迷信」で済ませられるような ものではありません。 ちょっとでも良いから未来を知りたい、そんな時には充分使えそうです。 ☆世の中には、まだまだ沢山の種類の占いがあります。 けれど、占いはどれも、「知りたいこと」と、「占うもの(占いの道具等)」を つなぐ、何らかの繋がりをつかって、答えを導いています。 占いよって、使っている繋がりは違うのでしょうけれど、それは どれでも、世界に存在する物を結ぶ、目に見えない繋がりなのでしょう。 ☆前兆占いの根拠と関連がありそうな話がありましたのでご紹介します。 (ユング『結合の神秘』人文書院 ,訳文『タオの心理学』より) 易経の翻訳等で有名なヒアルド・ヴィルヘルムが、 中国山東省で体験した話です。 「大変な旱魃があった。何ヶ月もの間、一滴の水も降らず、状況は深刻だった。 カトリック教徒たちは行列をし、プロテスタントたちはお祈りをし、 道教徒たちは線香をたき、銃を撃って、旱魃をおこしている悪鬼たちを 驚かせたが、なんの効果もなかった。 最後に、中国人たちはいった。『雨乞い師を呼んでこよう。』 そこで、別な地域から、一人のひからびた老人が呼ばれてきた。 彼はどこか一軒の小さい家を貸してくれとだけ頼み、3日間その家の中に 閉じこもってしまった。 4日目になると、雲が集まってきて、大変な吹雪になった。 雪など降るような季節ではなかった。それも非常に大量の雪だったのである。 そこでヴィルヘルムは出かけていって、その老人に会い、 どんなことをしたのかと尋ねた。 彼は、まったくヨーロッパ風にこう聞いたのである。 『彼らはあなたのことを雨乞い師と呼んでいます。あなたはどのようにして  雪を降らせるのか、教えていただけますか?』 すると、その小さな中国人はいった。 『私は雪を降らせたりはしません。私は関係ありません』、 『ではこの3日間、あなたは何をしていたのです?』、 『ああ、そのことなら説明できます。私は別の地方からここへやって来た  のですが、そこでは、万事がきちんと秩序立っていたのです。  ところが、ここの人たちは秩序からはずれていて、天の命じるとおりに  なっていないのです。  つまり、この地域全体が『道(タオ)』の中にいないというわけなのです。  ですから、私も秩序の乱れた地域にいるわけで、そのため私まで、  物事の秩序の中にいないという状態になってしまったわけです。  そこで私は、3日間、私が『道(タオ)』に帰って、“自然に”雨が  やってくるまで待っていなくてはならなかった、というわけです』」 世の中で起きることが、すべてこのように関連しているのなら、 今の時代は、悪循環になってしまっているのでしょうか?